固体イオン交換は、結晶構造を保ったまま、既存の材料中のイオンを別のイオンに置換することで、新たな物質をつくる手段です。高温合成では得られない準安定な化合物や、新しい機能をもったユニークな材料を合成できることから、新物質を探索する強力な手段として注目しています。これまでに、以下のような成果を報告しており、実験と第一原理計算の両輪としたアプローチで、新しい材料の発見に取り組んでいます。
太陽電池に適した1.5 eVの直接ギャップを有する酸化物半導体 β-CuGaO2 の発見 合成論文(2014) 計算論文(2016) 薄膜化論文(2017)
イオン交換が進行するか否かを第一原理計算で予測する手法の提案 プレスリリース(2024) 論文(2024)
新たなイオン源を探索することで未知の反応ルートが開拓できることを実証 論文(2025)
硫化スズ(SnS)は、地球に豊富で毒性のない元素から構成される半導体として、次世代の環境に優しい太陽電池として注目されています。SnSは通常はp型伝導性を示すため、これまではp型SnSとn型の他材料を接合した「ヘテロ接合太陽電池」が研究されてきましたが、p型SnSとn型SnSを接合したより高効率な「ホモ接合太陽電池」の実現を目指して、下記のようなn型SnSやそれに関連する研究を進めています。
硫黄欠損を制御することで、世界に先駆けてn型SnS薄膜を実現 プレスリリース(2021) 論文(2021) 総説論文(2022)
n型SnS単結晶とp型SnS単結晶を用いた、世界初の「ホモ接合SnS太陽電池」を報告 プレスリリース(2021) 論文(2021)
SnとSの組成のズレがSnSの電気的特性や形態に与える影響を詳細に解明 プレスリリース(2025) 論文(2025)
硫化物は、太陽電池・トランジスタ・固体電解質など、さまざまな分野で応用が期待されています。しかし、その薄膜を高品質に作製するには、猛毒のH2Sガスを用いたプロセスが不可欠でした。本研究では、H2Sを一切使わずに反応性の高い硫黄を供給する「硫黄プラズマ」によって、種々の硫化物薄膜を汎用的に、かつ安全に作製する技術を目指しています。
H2Sフリーのプロセスで、さまざまな硫化物薄膜が汎用的に作製できることを実証 Youtubeでのプロモーション動画
高エネルギーな硫黄プラズマによって、低温基板でも高結晶性の薄膜が得られることを実証 論文(2025)
物質をなんらかのデバイスに応用するためには、その物質自体や界面での電子構造を理解することが非常に重要です。これまでに、バルクや界面の電子構造を、X線光電子分光(XPS)や角度分解光電子分光(ARPES)といった実験的な手法によって直接観察してきました。これまでに、下記のような成果を発表しています。
熱電材料として期待される硫化物のバンド構造や分散を、放射光ARPESにて直接評価 論文(2022) 論文(2022) 論文(2023)
SnS単結晶を含む界面電子構造をin-situ XPSで解析し、フェルミ準位が広く可変であることを実証 プレスリリース(2022) 論文(2022)
β-CuGaO2とZnOの界面の電子構造をXPSで解析し、太陽電池として動作する接合であることを実証 論文(2021)